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飾り金具が引き立てる木と漆の芸術~岩谷堂箪笥(2)


インタビューレポート(2)
新しい伝統に夢を込める~「藤里木工所」様
訪問日:2010年10月09~10日



藤里木工所は、通常分業で行う岩谷堂箪笥の「木地加工」「漆塗」「彫金」の全ての制作工程を一社で対応できる唯一の会社です。今回は、代表取締役で「木地加工」「漆塗」「彫金」全てに伝統工芸士の資格を持つ、及川孝一さんにお話を伺いました。



彫刻家の中野桂樹先生を見つけた『現代美術家名鑑』。
彫刻家の中野桂樹先生を見つけた『現代美術家名鑑』。


―いつ頃この仕事を始められたのですか。
父は指物職人で、私はその長男として生まれました。15歳で上京して、初めは都内の江戸指物の師匠に弟子入りし、そこで3年間働きました。5~6年修行しないと売れるものは作れないと言われていたのですが、私が作った棚は6ヶ月で売れたので、師匠がとても喜んでくれました。でも、休日に美術書を読んだり美術館を回ったりしているうちに、彫刻に興味を持つようになり、彫刻をどうしてもやりたくなって、『現代美術家名鑑』という冊子で見つけた彫刻家の中野桂樹先生を訪ねて、そこで住み込みで修行をさせていただけることになったんです。

この本が先生を見つけた『現代美術家名鑑』です。いまでも記念に大切に持っています。



初期の頃に彫った木彫りの猫と及川社長。
初期の頃に彫った木彫りの猫と及川孝一さん。


―彫刻の勉強はいかがでしたか。
彫刻はとても好きで、お金をためてイタリアに行き、そこで勉強して彫刻家になりたいと思っていました。これは、初めの頃に彫った木彫りの猫です。近所でよく見かける猫がモデルで、のんびりとくつろいでいる姿を捉えたものです。美術展に出品させていただいたんですよ。

その後、生家の事情で故郷に戻ることになり、彫刻家への道はあきらめることになりました。でも、彫刻の勉強をしたことが、箪笥の金具を作るのに非常に役立ちました。それまで、岩谷堂箪笥の金具は平面的なものが多かったのですが、私は浮き彫りのような立体的な金具にしたんです。彫刻家になれなかった思いを、箪笥の金具に込めたんですね。



―故郷に戻られてからのお仕事はどうでしたか。
その頃の職人は工房は持たず、お客さんの家に出向いて仕事をしていました。大きな仕事だと、時には泊りがけで作業をすることもありました。

この間、故郷で仕事を始めたころの箪笥に出会う機会がありました。50年も前に作ったものですよ・・・泊り込みで作った婚礼家具でした。市の主催する金婚式のお祝いに出席した際、初めてそのご夫婦に出会い、私の制作した婚礼箪笥を大切にしていること、さらに金具を私の作った手打ち金具に取り替えて欲しいと言われて。とても感動しましたね。金具だけを交換して、また永く使っていただけるようにきれいにしてお返ししました。



漆の乾燥に最適な湿度・温度に保たれた室。
漆の乾燥に最適な湿度・温度に保たれた室。


―岩谷堂箪笥はどのようにしてできるのですか。
まず、材料となる木材ですが、経産省に認められる「伝統的工芸品」を制作するためには、伝統的な無垢材(合成しない、単一な木材でできた材木)を使用します。合板を使ったものは、「伝統工芸品」となります。材質は、硬度の必要な表側にはケヤキを使用し、やわらかくてキズのつきやすいスギやキリは、内側に使います。

基本サイズは4尺といって、横幅が120cm、高さが90cmくらいで片開きのものになります。1日仕事をして生地作りに5~6日、拭き漆(漆を塗っては拭く工程)を1回2時間、5~6回繰り返して10日、手打ち金具は丸1日作業して10日~2週間くらいかかります。全ての工程を一人で行うと1ヶ月、分業で平行して進める場合は早くて10日くらいで仕上げます。

漆は岩手の浄法寺などで採れる国産のものを使用することもありますが、やはり非常に高価なので多くの場合中国産のものを使っています。漆を塗ったあとは、室でじっくり乾燥させます。この室は漆の乾燥に最適な湿度80%、温度25℃に保たれています。



近代的な設備の整った広々とした木工加工工場。
近代的な設備の整った広々とした木工加工工場。


―(木工加工の仕事場を見て)とても広い工場と近代的な設備ですね。いま、藤里木工では何人くらい職人さんがいるのですか。
私と2人の息子を入れて17人です。最近では女性の職人もいますよ。



―(ショールームの作品を見て)伝統的なイメージの箪笥だけではなくて、シンプルでモダンなスタイルのものもありますね。
新作を出すと必ず購入してくれるお客様がいるんです。「こんどはどんな作品をつくってやろう」と、常に新しいことに挑戦するのは重要ですし、楽しいものです。



緩やかな曲面が美しい赤漆の箪笥。
緩やかな曲面が美しい赤漆の箪笥。


―『藤里木工』という会社の名前の由来は何でしょうか。
私はもともと、同じ江刺ですがもっと山奥にある藤里という場所の出身なんです。戦後、もののないときは長靴一つ買いに行くのに何時間も歩かなければならないようなところでした。最初の工場もそこに開きました。いま、この場所に工場を構えていますが、自分のルーツと、初心を忘れないようにするために、いまもこの名前を使っています。



インタビュ―を終えて:
時々昔の苦労を思い出して言葉につまりながら、じっくりとお話を聞かせてくださった及川社長。「企業秘密は何もありませんから」とおっしゃって、工場の隅々まで案内してくださいました。見ただけで盗むことなどできない、長年培った確かな技術と自信があるからこそだと感じました。「今年73歳ですが、あと30年は箪笥を作りたいんです。」とおっしゃった及川さん。70歳を超えているとはとても思えない瑞々しさと、静かな熱意にお話を伺った私たちも、とても前向きな気持ちになりました。



10月も半ばに差し掛かる、寒風の吹く暗い時間に工場をあとにした私たちを、社長と息子さんが作務衣のまま、見えなくなるまで見送ってくださいました。手がける箪笥も一竿一竿、このように心をこめて制作し、そしてお客さんのもとに送り出しているのだと思います。

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